こんにちは、ちゅらセキュアクラウドの山口です。普段は沖縄を拠点に、インフラエンジニア向けの基礎知識や情報セキュリティ研修のIT講師として活動しています。
今回は、ITエンジニアやシステム開発に関わるすべての方、そして私と同じようにIT研修を担当する講師陣に強くおすすめしたい一冊、『デザイン思考 = DESIGN THINKING マインドセット+スキルセット』(廣田 章光 著、日本経済新聞出版)のレビューをお届けします。
なぜIT業界に「デザイン思考」が必要なのか?
私たちITエンジニアは、良かれと思ってシステムに最新技術や豊富な機能を盛り込みがちです。しかし、使い手である人間の体験を置き去りにしてしまっては、新たな価値は生み出せません。
本書では、ドイツの世界的ITベンダーであるSAPの事例が紹介されています。かつてのSAPは、ユーザーの業務を十分に理解しないまま機能を増やす「機能過多」の開発に陥っていました。 そこから脱却するため、約8万人の全社員がデザイン思考を学ぶ環境を整え、顧客が本当に抱えている潜在的な問題を探るための「共通言語」として社内や顧客との協働に活用するようになりました。
技術偏重になりがちなエンジニアにとって、この「人間中心」の視点に切り替えることの重要性が、実例とともに痛いほど伝わってきます。
ITエンジニアを深く観察した「クラフトボス」の成功例
デザイン思考の第一歩は、顧客の行動を現場で「観察」し、深く「共感」することです。
本書で非常に興味深いのが、サントリーの大ヒットコーヒー飲料「クラフトボス」の開発秘話です。 開発チームは、ターゲットである「ITエンジニア」を徹底的に観察・インタビューしました。その結果、「長時間パソコンと向き合う孤独な職場で疲れを感じている」「デジタルな業務だからこそ、アナログ感やぬくもりを大切にしている」というインサイト(ペインとゲイン)を発見しました。 これを解決するために、ガラス瓶のような手作り感のあるパッケージと、仕事をしながら飲み続けられるすっきりとした味を採用し、これまで缶コーヒーを飲まなかった層の開拓に見事成功したのです。
「たった1人(N=1)」のターゲットを徹底的に観察し、真の課題を見つけ出すプロセスは、私たちが要件定義やシステム設計の初期段階で実践すべきアプローチそのものです。
研修やワークショップですぐに使える「スキルセット」
本書のもう一つの魅力は、思考の姿勢(マインドセット)だけでなく、具体的なツール(スキルセット)が豊富に紹介されている点です。
- 共感マップ・感情曲線: ユーザーの言動から頭の中の思考や感情を推測し、体験を可視化するツール。
- プロトタイピング: 時間をかけて完璧なものを作るのではなく、身近な素材で「5分でつくり」、早く失敗して修正を繰り返す手法。
- アイスブレイク手法: ワークショップを活性化させる「ビジュアルしりとり」や「シングルストローク」。
私自身、新入社員研修やセキュリティ研修を行う際、受講者を飽きさせず主体的な議論を促すアクティブラーニングの手法として、スタンフォード大学のd.schoolでも実践されているこれらのファシリテーションスキルは非常に役立つと感じています。
まとめ:言われたものを作る「御用聞き」からの脱却
これからのITエンジニアに求められるのは、言われた通りのインフラやシステムを構築するだけでなく、「なぜそれが必要なのか?」「本当の課題は何か?」を顧客と共に探る姿勢です。
本書は、そのための具体的なプロセスとフレームワークを体系的に学べる良書です。開発現場のリーダーはもちろん、これからのIT業界を担う若手エンジニア、そして彼らを育成するIT講師の方々にとって、視座を引き上げてくれる必読の一冊と言えるでしょう。
気になった方は、ぜひお手に取ってみてください!